歴史学講座(人文学プレ・ゼミ/2023年春期講座)
- テーマ
- 「人間学としての歴史学―中世ヨーロッパを題材に」
- 講師
- 後藤里菜(ごとうりな)。
西洋中世史、霊性史、心性史を専門とするが女性史、ジェンダー研究をふくめ幅広い関心を持つ。一般信徒、女性を視野に入れた人間学としての歴史学のあり方を模索中。また、近年さかんな感情史研究の動向をふまえながら、神と人、人と人とをつなぐものとしての〈感情〉に注目している。著書に、『〈叫び〉の中世 ―キリスト教世界における救い・罪・霊性―』(2021年9月、名古屋大学出版会)。現在、川村学園女子大学、立教大学、東海大学、共立女子大学、清泉女子大学、青山学院大学にて非常勤勤務。
- 日時
- 各日15:30~17:40
- 参加費
- 全4回 50,000円
講座概要
みなさんは歴史の勉強が好きですか。暗記は苦手だから嫌い、暗記が得意だから好き、と言った声が聞こえてくる気がします。あるいは、大学受験には出ないような戦国武将のマニアックなプロフィールには興味があるが、授業で学ぶ歴史は単調で好きではない、という人もいるかもしれません。
大学進学以降に研究してゆく歴史学において、後者のような個別の対象への深い関心はおおいに歓迎されます。また、歴史学の研究は決して暗記ではありません。もちろん、研究史上明らかな事実というものがあり、それを正確に把握することは必要ですが、歴史を紡いできたのはわれわれと同じ、ほかならぬ「人間」であるため、どの人文学よりも身近で、根底にあるものこそが歴史学です。その意味で、歴史学とは人間学であると私は思います。
この度、高校生のみなさんを対象にプレ・ゼミを開く機会をいただき、嬉しく思っています。私自身が専門としている中世ヨーロッパを入口としながら、人間学としての歴史学の面白さを知ってもらいつつ、限られた時間の中にはなりますが、自分なりのテーマを見つけて探究するための手助けを精一杯させてもらいたいと思います。
歴史を遡ればたいていそうであるように、中世には身分差というものがあり、基本的に農民の子は農民、騎士の子が騎士です。ですが、彼らがその不平等を不満に思っていたとは限りません。キリスト教世界であった中世ヨーロッパでは、その秩序じたい神の与えたものとみなされている節があり、たとえば色々な点で公の行動が制限されていた「女性」のうち、例外的に執筆活動をゆるされた人物(クリスティーヌ・ド・ピザンなど)であっても、秩序のありかた自体の変化や平等化を求めていたわけではないのが興味深い所です。
そのほか、中世キリスト教世界では動物や自然について、色について、空を飛ぶ動物のほうがより天に近いので尊いだとか、赤が尊く、黄色は忌避すべきで、緑は両義的であるだとか、さまざまな事柄に象徴的な意味が読み込まれていました。それは、特定の動物や色を可愛いと愛でたり、自然の美しさに感銘を受けて写真に撮るわれわれとは、また少し異なった感性・世界観かと思います。
感性や世界観にも目を向ける人間学としての歴史学の奥深さを体感する中で、知識や技術を学ぶだけでなく、人間としてよりよく生きることについて各自、考えを深めてもらえたら幸いです。
各回の概要
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第1回
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受講者の自己紹介、入門講義、参考文献リスト配布と解説
入門講義①「人間学としての歴史学とは」
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第2回
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入門講義、各受講者の発表イメージ聴取と助言
入門講義②「中世ヨーロッパの人間の世界観」
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第3回
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受講者による文献紹介(1,2冊の文献を各受講者に選んでもらい、関心に即しつつ発表してもらいます)
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第4回
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受講者による本発表と相互質疑および講評、全体への講評・まとめ