コラム

「Quid Est Sapientia」設立のきっかけと目的

 はじめまして、クェス代表の村上寛と申します。

 14世紀初頭に異端思想のために処刑された女性の著作が「なんだか分からないが面白い」と魅入られて研究の道に入り、かれこれ20年近くが経過しました。近頃では人文学の研究でも「何故その研究を行うのか、どのような役に立つのか」という意義を説明することが必須になっています。研究史の中で自分のこの研究がどのような位置にいるのか、何を明らかにするのか、それによってその研究領域にどのようなインパクトを与えるのか――そういったことはもちろん重要で、そういった観点がない研究はどうしても独りよがりや自己満足に陥りがちになってしまうことは重々承知しているのですが、やはり根本的には「なんだか分からないが面白い」から読んだり調べたり考えたりしているような気がします。

Quid Est Sapientia(QeS:クェス)設立の動機

 この度、博士による人文知を提供する場を作ろうと考えた切っ掛けは無数の積み重ねによるもので、一つに絞ることは出来ませんが、最終的にこのような場を設立しようと考えた動機は大きく二つあります。

1.社会の側からの人文知に対する潜在的需要

 一つは社会の側からの、人文知に対する潜在的需要に応える場が必要だと考えたことです。大学が社会や市民に人文知を提供していないのかと言えば、もちろんそんなことはありません。研究者による一般読者を想定した書籍、あるいは大学の公開講座や企業が運営するカルチャーセンター、またNPO法人国立人文研究所KUNILABOのように、良質な人文学の知を広く人々に伝えている場は、実は少なくありません。しかし、特に企業などが人文知について「知りたいことを尋ねる場」は、これまで大学を除けばほとんどなかったのではないでしょうか。

2.尋ね先が主に大学だけだったこと

 尋ね先が主に大学だけだったことは、二つ目の動機に関係します。研究者ではない方々にとって、現役の専任教員でさえ何処で誰がどのような研究をしているのかを調べるのは大変なのに、それがポスドクや非常勤の教員、常勤を退いた教員ではなおさらではないでしょうか(research mapのおかげで格段に探しやすくはなりましたが・・・)。私自身の研究対象そのものが興味を持たれたり需要を生むことはあまりなさそうですが、様々な学会や研究会に参加していると、深く、豊富で、しかも需要がありそうな知識を提供出来る研究者に大勢出会います。そうした研究者があまり人目に触れていないとしたら、これは言うなれば宝の持ち腐れのようなものではないでしょうか。もちろん研究者は研究が本分ではありますが、提供出来る専門知を提示しておく場は、一つ目の動機である潜在的需要に応える場として必要なのではないか――そう考えたことが二つ目の動機であり、それら両面の動機がクェス設立の経緯です。

2020年5月14日コラム,スタッフコラム

Posted by 村上 寛 Hiroshi Murakami


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Quid Est Sapientia

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